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ガラスの骨格を作るもの
[ 珪 砂 ]

 まず、珪砂。ガラスの骨材にあたるシリカ(SiO2)を与えます。シリカはガラスの組成比率の70%を占める 重要成分です(リン酸ガラスなど特殊なガラスの場合にはその骨材がリン(P2O5)となります)。
 珪砂に要求されることは、粒度すなわち原料の粒の大きさがある程度細かく、また粒の大きさが揃っていること。 なにしろ、シリカ自体は2000度以上熱してもそう簡単に溶けない物ですから、細かさが要求されます。かといって、 あまり細かすぎると、粉同士固まってしまって、かえって溶けにくくなったりします。
 それから、不純物が少ないこと。ごく単純に言ってしまえば、鉄分(Fe2O3)が少ないこと。鉄分が多いと、 透明なガラスにした時に、青く見えてしまいます。板ガラスを斜めに見たときに見えるグリーン色、あれが、 鉄の色です。シリカ分の純度はある程度高い方がいいのですが、たとえば鉄以外のアルミとか、カリなどの成分は 入っている方が有利な場合もあります。
 珪砂は天然のものを使います。かつては、国内産(主に愛知県瀬戸市周辺)が中心でしたが、現在はオーストラリアや マレーシアなどからの輸入珪砂が中心となっています。
[ ソーダ灰 ]

 ソーダ灰(Na2CO3)はシリカを「溶かす」(という表現をあえて使います)役目をする 酸化ナトリウム(Na2O)を与えます。これは、天然でもとれますが(アメリカのトロナ灰など)、 日本ではソルベー法による工業生産品を多く用います。
 酸化ナトリウムソーダ石灰ガラスで、通常12%〜18%ぐらい入ります。酸化ナトリウムの比率が低いほど、 ガラスの耐久性は増しますが、反面溶融するのに、より高温が要求されます。ちなみに、通常の溶融炉で 1400℃以上の高温でガラスを溶融します。酸化ナトリウムはあまり入れすぎると、ガラスの耐久性が 極端に悪くなります。
[ 炭酸カルシウム ]

 炭酸カルシウム(CaCO3)は、ソーダ石灰ガラスの石灰すなわちカルシア(CaO)分を与えます。 消石灰(水酸化カルシウム、Ca(OH)2)を使用する場合もあります。余談ですが、消石灰は運動場の白線などにも 良く用いられます。
 カルシア分は、ガラスに耐久性を与えます。通常のソーダ石灰ガラスで、カルシア分は3%〜12%ぐらい 入ります。特に、板ガラスやビール・ビンなど容器ビンには、たくさん入っています。
[ 硼 砂 (ほうしゃ) ]

硼砂(Na2B4O7)とはききなれない名前かも知れませんが、ガラスにとって、重要な原料です。 硼酸(ほうさん、B2O3)分と酸化ナトリウム(Na2O)を与えます。硼酸も、ソーダと同じく シリカを「溶かす」原料の一つですが、硼酸はガラスの耐久性を逆に高めます。
 また、ガラスの、熱に対する膨張の度合い(熱膨張係数といいます)を、低くする役目も します。熱膨張係数が低いほど、熱衝撃、すなわち、急冷、加熱に強いガラスになります。このような ガラスのことを一般に「硬質ガラス」と称する訳です。この場合には、硼酸分(B2O3)を15%〜16%ぐらいまで 入れます。その分ナトリウム分は減少させます。そのため、含水硼酸(H3BO3)も併用します。
 ソーダ石灰ガラスでも、硼酸分を入れる場合があります(B2O3で3%ぐらいまで)が、この場合は あくまでナトリウム分の補助的な役割となり、溶け易さと耐久性のバランスを保ちます。
[ 炭酸カリ ]

 炭酸カリ(K2CO3)は、酸化カリ(K2O)を与えます。酸化カリは、酸化ナトリウムと同じく アルカリ成分で、ガラスを溶融しやすくする成分です。
 酸化カリの特徴は、ナトリウムに比べ、ガラスの表面の艶を良くしたり、 あるいは色の発色を良くしたりします。また、不純物の鉄の発色を押さえます。 ですから、鉛クリスタル・ガラスの場合、鉛以外にカリもたくさん 入れます。この場合には、ナトリウムカリに置き換える形にします。たとえば、アルカリ成分の半分以上を カリにすると、非常にきれいなガラスとなります。
 ヨーロッパ、特に東欧(チェコなど)のガラスは、このカリ分を多く含んでいて、カリ・ガラスという 呼び方をする場合もあります。
[ 水酸化アルミ ]

 水酸化アルミ(Al(OH)2)アルミナ(Al2O3)分を与えます。 アルミナはガラスの化学耐久性(耐酸性など)を高めるとともに、温度変化に対して固くなりにくい、 いわゆる足の長いガラスにします。 要するに、温度が下がっていくと、当然溶けたガラスは固くなっていきますが、アルミナ成分が多いと、 その傾向が緩やかになるという訳です。このことは、ガラスを成形する場合、非常に重要なことになります。
 アルミナ成分は、この他、酸化アルミ(Al2O3)長石から取る場合もあります。 アルミナは、通常のソーダ石灰ガラスで1〜2%程度入ります。 硼珪酸ガラス(硬質ガラス)では、3%程度入ります。
[ 長 石 ]

 長石シリカ(SiO2)が60〜70%、アルミナ(Al2O3)が12〜18%、 カリ(K2O)が5〜10%、ナトリウム(Na2O)が2〜3%含まれていて、ガラスの基礎成分 を取るのに便利なのですが、不純分の鉄分(Fe2O3)が多くなることと、原料が天然物であるため、 成分が若干変動するという欠点があります。
 しかし、その欠点をうまくクリアーすれば、珪砂よりも溶けやすいので有効なガラス原料です。この原料は、 ほとんど国内産(愛知県瀬戸市など)が使用されます。
[ 酸化鉛−鉛丹、リサージ ]

 鉛丹(Pb3O4)リサージ(PbO)ともに、酸化鉛(PbO)を与えます。 酸化鉛は、鉛クリスタルガラスの 重要成分です。鉛クリスタルガラス酸化鉛の含有量は、5%〜30%ぐらいまで範囲が広いのですが、 フル・クリスタル酸化鉛(PbO)分の含有量が24%というのが標準となります。 セミ・クリスタル酸化鉛(PbO)分の含有量が8〜12%ぐらい入ります。
 還元(酸素が奪われて、鉛の場合、酸化鉛PbOから金属鉛Pbになること)されて、黒くなりやすいので、 鉛丹(酸素がひとつ多い)を使うケースが多いのです。酸化・還元の話は、稿をあらためて、述べます。
 酸化鉛は、ガラスに艶を与え、屈折率を高めるとともに、比重も増すため、ずっしりとした重量感も与えます。 また、薄く吹いたブランディー・グラスなど、酸化鉛成分が高いほど、チーンときれいな金属音がします。
 酸化鉛を入れることによって、先程述べた足の長いガラスにもなりますし、冷めた後、カットなどの 加工をする場合にも、軟らかいので作業がしやすいなど、ガラスにとっては、非常に有利な原料の一つなのです。 ですから、昔から酸化鉛が使われてきた訳です。
 ただ、現在はだんだん鉛の毒性が問題になりつつあり、鉛を使わないクリスタルも考えられるように、なってきました。 また、一方、TVのブラウン管にも、酸化鉛は必須の成分となっています。
[ 酸化亜鉛 ]

 酸化亜鉛(ZnO)は、そのままガラスの中に酸化亜鉛として入ります。酸化亜鉛は、セレン赤カドミ黄の必須の成分です。また、酸化亜鉛アルミナのように高温からに冷却していく時、温度変化に対して、 すぐに固くならない足の長いガラスにしてくれます。また、熱膨張を比較的低くするので、 硼珪酸ガラスの成分にも、使われることがあります。
 また、ガラスに光沢を持たせる作用もあるので、最近は鉛レスのクリスタルガラス−当社の ガラスで言うと、Aスキ(スキとは透明ガラスのことです)などにも、次に述べる酸化バリウムと 同様に、重要成分として入っています。
[ 炭酸バリウム ]

 炭酸バリウム(BaCO3)酸化バリウム(BaO)を与えます。酸化バリウムはガラスの 屈折率を高めるとともに、高いX線吸収率をもっているため、鉛と同じくTVのブラウン管ガラスの 必須の原料であり、また、光学ガラスにも多く用いられます。
 また、比重も重くなるため、ガラスにずっしりとした重量感を与えるので、 鉛レスのクリスタルガラスに用いられます。
[ 炭酸リチウム ]

 炭酸リチウム(Li2CO3)酸化リチウム(Li2O)を与えます。酸化リチウムは、 酸化ナトリウム(Na2O)酸化カリ(K2O)と同じアルカリ成分で、 その中でも、ガラスをもっとも溶け易くする性質を持っています。
 ただ、ガラスの耐久性を悪くする度合いもアルカリ成分のなかで一番高いので、通常、添加量を0.5%程度までに 抑えます。炭酸リチウムは白い粉末で、少し高価な原料です。
 リチウム成分は、スポジュメンペタライトといったリチウムを含んだ鉱石からも添加することができます。
 また、リチウム分は最近リチウム電池の材料としても脚光を浴びています。

 その他、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコン(ZrO2)などが、 ガラスの成分として用いられます。

 
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