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ガラスの着色剤−酸化雰囲気−

 着色ガラスを考える場合、一番大事なことは、それが、「酸化雰囲気」か、 「還元雰囲気」かということです。
 少し話しが複雑になりますが、ガラスの着色を理解する場合に、どうしても必要な概念なので、 ここは我慢して、聴いて下さい。
 ガラスで「雰囲気」という場合、何も気分がどうのといったことではなく(当たり前ですね^^;)、 ガラスを溶解する際に、そのガラス原料の周囲に酸素がたくさんあるか、 あるいは逆に少ないかということを指します。
 酸素がたくさんあれば「酸化雰囲気」、逆に酸素が少ない場合「還元雰囲気」と言います。 そして、同じ着色原料を使っても、酸化雰囲気か、還元雰囲気かによって、発色する色が変わってしまうのです。ですから、「雰囲気」ということが、非常に大事になってくるわけです。
 ごく大まかに言って、酸化雰囲気で出す色は寒色系還元雰囲気で出す色は,暖色系だと言えます (もちろん、例外もありますが)。
 酸化雰囲気系の着色剤は、通常の透明ガラス用のバッチ(粉状のガラス原料) に混ぜるだけで、希望の色をほぼ得られます。それでは、まず酸化雰囲気の着色原料から...

[ 酸化コバルト Cobalt oxide]
 あざやかなインクブルーの青、それが、酸化コバルトの色です。ルリ色とも称します。 原料の酸化コバルトは灰色の粉ですが、ガラスの中に入ると、ブルーになる訳です。 ガラスの古くからの名称の一つである「瑠璃」(るり)を名乗っている訳ですから、それだけ、 ガラスの着色剤として、昔から使われてきたということでしょう。
 ガラスの中にはそのまま酸化コバルト(CoO)として入ります。発色は、 ほぼ安定していて、あまり神経質にならなくても、同じ色が再現出来ます。酸化コバルトの着色力 は非常に強く、0.01%入っただけでもはっきりとしたブルーの色が得られます。
 原料の酸化コバルトとしては、グレイ(Co3O4/CoO)ブラック(Co3O4) の2種類がありますが、グレイの方が純度が高い分、色が濃くなるだけで、あまり大きな違いはありません。
 着色の目安としては、Aスキのバッチ25kgに対し、5gでしっかりとしたブルーが出ます。
[ 酸化銅 Cupric oxide]
 酸化銅(CuO)は、いわゆる空色、スカイブルーを与えます。トルコブルーという 呼び方もあります(トルコ石の青)。原料の酸化銅(酸化第二銅)はいわゆる黒色酸化銅といわれる ように、真っ黒な粉です。
 酸化銅還元雰囲気の場合には、銅赤といわれる暗い赤を与えます(この場合には亜酸化銅Cu2O)。 ただし、その色を出すためには、 色んな添加物が必要となりますが。
 また、クロム成分と合わせて、エメラルド・グリーンを出すときにも、酸化銅は使われます。それから 酸化銅は、その土台のガラスの成分、溶融温度などの条件によっても微妙に発色が変わるので、 注意が必要です。
 着色の目安としては、Aスキ25kgに対し、100gぐらい。
[ クロム化合物 Chromium Compounds]
 酸化クロム(Cr2O3)は、ガラスにグリーン色を与えます。ただし、エメラルド・グリーンのような あざやかなグリーンではなく、少し黄味を帯びた若草色になります。そこに、酸化銅の青を入れることによって、 エメラルド・グリーンが出てくる訳です。
 酸化クロムの原料としては、重クロム酸カリ(K2Cr2O7)酸化クロム(Cr2O3)が使用されます。 このうち、重クロム酸カリは劇物で使用が制限されます。一方、酸化クロムは若干溶融しづらい原料です。 また、酸化クロムは酸化銅と同じく、ガラスの成分、溶融温度などで、発色が変わります。
 着色の目安としては、Aスキ25kgに対し、40gぐらい。また、エメラルド・グリーンの場合には 酸化第二銅100gと酸化クロム40gぐらい。
[ 酸化ニッケル Nickel oxide]
 酸化ニッケル(NiO)は、ガラスに入る前の原料の状態では渋いグリーン色の粉ですが、かなりややこしい着色材です。 なぜなら、ガラスの土台の成分でまるで発色が変わるのです。ですから、色の見本が出せません。
 カリ(K2O)が多いガラスでは、ガラスにきれいな紫色を与えます。しかし、カリよりも ナトリウム(Na2O)分が多い場合には、灰色の濁った色になります。いわゆるスモーク色です。 しかも、その変化具合が銅とかクロムと同じく溶融温度でも微妙に変わってくることがあります。 化粧品やお酒のビンなどの着色に良く使われます。
 着色の目安としては、Aスキ25kgに対し、20gぐらい。
[ 酸化マンガン Manganese oxide]
酸化マンガンはガラスに紫色を与えます。原料は二酸化マンガン(MnO2)を主に用います。 ガラス中にはMn2O3あるいはMnO2の形で入ります。
 酸化マンガンの場合には、さえた紫色を得るには強い酸化雰囲気を保つ必要があります。 そのため酸化剤(硝酸ソーダなど)を多く原料の中に入れます。さらにカリ分が多いほうが、 よりきれいな発色をします。
 着色の目安としては、Aスキ25kgに対し、80gぐらい。
[ 酸化ネオジム Neodymium oxide]
一般的に使われる表記は「酸化ネオジウム」ですが、化学の専門書などには「酸化ネオジム」と表記されます。ですのでここでは「ネオジム」で 紹介させていただきます。
酸化ネオジム(Nd2O3)は、あとから述べる酸化エルビウム酸化セリウムと同じ稀土類になります。 稀土類は発見されるのが18世紀末と他の元素より遅く、また抽出がかつては難しく、あまり地球上に存在しないと 思われたいうことで稀土類と名付けられましたが、実際には、地球上に比較的豊富に存在する元素です。
 稀土類の原料は、発色が酸化・還元に左右されにくいということと、大量に入れてもあまり濃くならないという 共通点があります。
 酸化ネオジムは薄青色の粉末で、そのまま酸化ネオジムの形でガラスにはいります。色はラヴェンダー色とも いうべき、きれいな青色で、太陽の下で見ると赤みを帯びます。また、酸化ネオジムはガラスの鉄分の色を消す のに微量に添加される消色剤にも使われることがあります。
 着色の目安としては、Aスキ25kgに対し、300gぐらい。
[ 酸化エルビウム Erbium oxide ]
酸化エルビウム(Er2O3)は、非常にきれいなピンク色を与えます。ピンク色はかつてはあとで述べる セレンによる着色が一般的でしたが、雰囲気によって色が変化しやすいという欠点がありました。エルビウムは、 その点発色がきわめて安定しているので、安心して使えます。
 欠点としては、非常に高価なことと、あまり濃くならないので濃いピンクは作れないということがあります。 しかし色が変化しにくいので、たとえば透明なガラス(Aスキなど)にそのまま添加するだけでも、ピンク色のガラス を作ることができます。この場合、バッチの0.5%〜2%程度添加します。ネオジムの場合にも、 ほぼ添加量は同じです。
 着色の目安としては、Aスキ25kgに対し、300gぐらい。
[ 酸化セリウム Cerous oxide ]
 酸化セリウム(CeO2)は、薄い黄色(カナリア色)を与えます。ただし、酸化セリウム 単独ではほとんど発色せず、酸化チタン(TiO2)を添加することによって、発色します。 あとで述べるカドミ黄の鮮やかな黄色に比べ、淡く薄い感じの黄色になります。
 原料としては、酸化セリウムそのものか、水酸化セリウム(Ce(OH)3)を使用します。また、 酸化セリウムは、ガラスを研磨する際の仕上げ剤にも用います。
 着色の目安としては、Aスキ25kgに対し、酸化セリウム500gぐらいと酸化チタン1kgぐらい。(比率によって 色が変わります)
他の稀土類元素としては、淡くさわやかな緑色を与える酸化プラセオジム、光学ガラスに 用いられる酸化ランタン(着色はしない)などがあります。
 また、酸化雰囲気系の着色原料としては、他に酸化鉄(板ガラスの色です)、酸化バナジウム(酸化状態によって 黄色〜緑色)など、まだまだたくさんあります。
 
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